学びの場の目線からのコイノベーション by 赤司展子(コラム協創&競争/Vol.3,No.4,2021.1.4)

コラム『協創&競争』

当学会は、協創、競争、そして、サステナビリティを結びつける「場(領域)」に関わる研究調査の成果を蓄積することにより、開かれた科学の目線から新たな学問を深化させることを目指しております。それらの場(領域)に関わるトピックテーマを「Vol.」(巻)として、それぞれの「Vol.」の中に、おおよそ10個ほどのコラムを連載することにしました。 「安心・安全」「資源循環」「e-スポーツ文化」などの研究分科会に参加する方々からのコラム投稿も増えることを期待します。(JASCC.ORG事務局)

コイノベーション(協創:Co-innovation)について、「#学びの場」、「#多彩能®」と「#感じる力」のコンセプトを使いながら考えてみよう。

多彩能が引き出される建築×STEAMプログラム

 「みんなが粘土でつくった自由な形が、最新技術の発展につながってるよ。」と言ったのは、構造設計一級建築士で東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻・准教授の佐藤淳氏。オンラインスクール「COILS SCHOOLツリーハウスの学校」のレッスンでの一幕である。

 COILS SCHOOL™は、ウィーシュタインズ株式会社が運営する「建築」をベースとした体験型の学びの場であり、小学生を対象にしたワークショップやサマーキャンプからなる。2020年秋、新型コロナウイルスの感染拡大を受けオンラインで開催することとなったCOILS SCHOOLに、11名の小学3年生〜6年生が集まった。集まったと言っても、東は福島、西は岡山、そしてオーストラリアのシドニーと、それぞれの自宅からオンライン会議システムzoomを通した画面上での対面の「学びの場」である。

 COILS SCHOOLのCOILSとは、Co-Innovative Learning Systemの略で、協創的な学びを意味する。ウィーシュタインズでは、一人ひとりが持つ彩り豊かな能力、つまり持ち味のようなものを「多彩能®」と呼び、この多彩能が引き出され育まれる協創的な学びの場づくりを実験的に行なっている。前提として、誰でも生まれつき創造性があること、そして一人ひとりの違いを活かす多様性が創造には不可欠である、という考え方があり、分野横断的で実践的な学習アプローチとしてのSTEAM(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematicsの頭文字)を取り入れている。

 さて、先ほどの佐藤氏のコメントの背景をもう少し説明しよう。オンラインレッスンでは、第一線で活躍する建築家やアーティストがクラスを受け持ち、子どもたちはアーティストやサイエンティスト的な視点を身につけたり建築的な知識や技術に触れたりする。5回目のクラスでは佐藤氏がコラボレーションアーキテクトとして、粘土で思い思いの作品を作ろうというプログラムをリードした。ただし、「つながる〇〇」というテーマと、作った作品は3Dプリンターで印刷される、という条件付きである。橋や汽車など自分の好きなものを作る子、「つながる」というキーワードからオリジナルストーリーを形にしていく子、考えるより先にどんどん手が動き複雑な自由形状を生み出す子、などプロセスは様々で、実に多様な作品が生まれた。こちらを佐藤氏の研究室の学生が3Dモデリングして印刷するという流れであるが、これだけでは共同製作あるいは連携作業にすぎない。

共同から共創、そして協創

 当学会の代表理事である菊池純一氏が述べているとおり「三つの異なった力を束ねて」創り出すことが協創であるとすると、今回は子どもの力、学生の力、そしてコラボレーションアーキテクトの力が相互に作用して創造が進んだと言える。まず子どもは、個性や独創性、手先の器用さを活かして個々の作品を作った。また、3D プリントしてもらうために粘土の作品を様々な角度から撮影し、16枚の写真を大学生に提出する。実は、保護者に撮ってもらうことを想定してマニュアルを作ったが、後から聞くと多くの子どもが自分で撮ったようである。こだわったところの寄りのショットも撮って、粘土作品に込めた思いを3Dプリントに反映できるようにした。

 一方、大学生・大学院生は、それぞれ2〜3名の子どものモデリングを担当した。事前に担当割りを決めておくことで、オンラインレッスン中の子どもの創作プロセスや発言を観察し、写真からだけでは伝わらないであろう部分を読み取ろうとしてくれた。今回フォトグラメトリー(Photogrammetry)という3Dモデルを立ち上げるためのテクノロジーを使用し、素人がスマートフォンのカメラで撮った16枚の写真でモデリングできるかという挑戦も含まれていた。結局は再現度が高くはなく、八割方は学生が作業し修正したと聞いたが、実は建築学科の学生が全くの自由形状をモデリングする機会はあまり多くないとのことで、想定を超える子どもたちの自由な発想は、学生のスキルの向上にも役立ったようである。なお、普段のゼミよりも佐藤氏のダメ出しが厳しかったらしいことも言添えておく。

 第6回のクラスに合わせて届いた3Dプリントされた作品を手にすると、子どもたちはまじまじと見たり、大事そうに触ったりしながら感想を述べた。

「ここ、粘土で作ったのとおんなじ!」

「粘土ではどうしてもでこぼこができちゃったんだけど、プリンティングされたのはきれいになってる」

 「あれ、ここちょっと違うね・・・そっか、はずれないようにするためだね!」 どんな風に印刷したか、どうモデリングが難しかったか、など一つ一つ説明する学生のコメントにも真剣に聞き入り、大学生を悩ませる作品を作ったことが少し嬉しそうでも誇らしそうでもあった。

学びの場におけるコイノベーション

 さて、この三者の協創において、私が感じた一番の「力」は「感じる力」である。学生は少ない情報から作者の思いを汲み取ろうとし、子どもは3Dプリントされた作品から様々な情報を感じ取った。自分の表現を学生がどう解釈したのか、最新テクノロジー(3Dプリンターやフォトグラメトリ)にできることとできないこと、など。そしてコラボレーションアーキテクトは、この二者の共鳴を起こすべくそれぞれの思いを受け取り繋いだ。さらに、リモートでも子ども同士はちゃんと繋がっていて、クラスメイトの作品からも色々と感じ取っている。

 COILS SCHOOLという学びの場において、イノベーションは目的ではなく、イノベーションを起こせる人材の育成が目的であると考える。つまり協創するプロセスこそが重要である。それこそが協創的な学びの場の意義ではないだろうか。

 冒頭の「みんなが粘土でつくった自由な形が、最新技術の発展につながってるよ。」は、子どもたちに自信と勇気を与える言葉だった。自分の個性やクリエイティビティが認められたこと、誰かに影響を与えたり何かの役に立ったりしたこと。協創する喜びを何かしら感じてくれたのではないかと思う。こういった体験の積み重ねが一人ひとりの多彩能を伸ばし、協創できる人材が育っていくと考えている。

プロフィール

赤司 展子
赤司 展子
ウィーシュタインズ株式会社代表取締役/NPO法人インビジブル理事/一般社団法人STEAM JAPAN理事/社会彫刻家

事業会社等の勤務を経て2007年PwC Japan入社。2014年~2016年、PwC Japanから出向し福島県双葉郡教育復興ビジョンの具現化を推進。2018年6月ウィーシュタインズ株式会社を設立。子ども向けのSTEAMプログラムの企画開発や、学校向け経営アドバイザリーサービスなどを通して「学びの多様化」に取り組んでいる。