CxO発信サステナブルだーつ/ちぃっとらっつ農舎・ポラーノ農園

CxO配信【 サステナブルだーつ】とは?

「協創的競争の場」(‘Ba’Fields of Co-Innovative Competition)では、会社、学校、組合、非営利組織、さらには、他の複合組織が活動する。その活動の要には、「何らかの最高責任者CxO」(Chief X Officer : CEO、CFO、CTOなど)がいる。まずは日本の各地へ旅をして、CxOの者たちから話を聞いてみよう。何を夢みて、何をやろうとしているのか、その汗と涙のひとしずくを切り取ってみよう。

今回のサステナブルだーつスポット(取材先)

地域静岡県藤枝市
名称ちぃっとらっつ農舎・ポラーノ農園
ホームページhttps://cyittorattu.com
CxO杵塚歩 ちぃっとらっつ農舎 運営統括責任者(CEO)
鷲野浩之 ポラーノ農園 運営統括責任者(CEO)
キーコンセプト#豊かな生態系 #少しずつ #繋いで繋ぐ #地域に根差す
現在の業態無農薬農作物の生産及びこだわり加工品の販売
取材日時2022.10.27

“少しずつ少しずつ繋ぐこと”をコンセプトに展開している、2019年から「ちぃっとらっつ農舎」と「ポラーノ農園」を統括し始めた杵塚歩(きねづか あゆみ)氏と鷲野浩之(わしの ひろゆき)氏に聞いてみた・・・・

少しずつ少しずつ循環の輪を繋げる。まず、地域で入手可能なものを茶畑に入れる。藤枝には酒蔵が多く酒粕が手に入る。近隣には国産原料を用いて伝統的な木桶仕込みにこだわる醤油蔵もあり搾りかすがでる。そして、田んぼ、小麦の畑、大豆の畑からは藁(わら)などが大量にでる。秋冬になると、畑へ続く山の農道には落ち葉が降り積もる。近くにあるものを工夫して大切に、土に還し、土から恩恵をいただく、無駄のないものの循環の輪を少しずつ少しずつ繋げる。さらに、無農薬の茶葉から煎茶、紅茶、くき茶、番茶、ほうじ茶などをつくりあげる。

発酵調味料、しょうゆ糀、玄米糀、玄米糀味噌などは、各地から集めた在来大豆の自家採種を繰り返して、さらに、昔ながらの作り方で仕込んだ糀を使って工夫しながらじっくりと熟成させて、一歩ずつ一歩ずつ、食してくれる方々の微笑みを頂く。まさに、繋ぐことの故となる点と点がそこにあった。

無農薬みかんのジュースは、一つずつ一つずつ、個性豊かなみかんをハサミで切り取り、瓶に詰める。甘さと酸っぱさの絶妙なバランスがつくりだされる。農舎や農園で働く人々は、自然が与えてくれた多様な豊かな個性を引き出す特技をお持ちなのであろう。

地域に根差す「食と農」を介して、そして、自然に寄り添いつつ、前の時代から繋いで繋ぐこと・・・

農舎と農園は、2019年から始めている。しかし、それが地域に根差した「食と農」を「繋いで繋ぐこと」の始発ではない。

地域にはその地域特有の自然環境がある。地域に根差すということは、そこで昔から行われている農業や食、暮らしのあり方を再度見つめ直し、今の時代に応用していくことに他ならない。近所のおじいちゃん、おばあちゃんとのお話や、先輩農家から教えてもらう中で、今のかたちにたどり着いたとのことである。2019年の独立以来、自分たちの目指す地域に根差し循環する農のあり方、そして、作物を通して、里山の豊かさを表現し続けている。

「続けること」は大切なことである。しかし、「自然に寄り添うこと」は、一年の春夏秋冬を何年にもわたって、辛抱強く繰り返すことでもある。農の歳時記は、春先の一番茶の準備、田おこしから始まって、梅干しの土用干し、秋の稲刈り、そして、冬場のみかん収穫、鴨絞め、餅つき、糀・味噌の仕込み、三番茶作りへと続き、繰り返される。

歳時の繰り返しは、新しい毎日の仕事の積み上げに他ならない。平飼いの「鶏」は、生まれて5か月もすると有精のタマゴを毎日生み、2年ほどでその役割を終える。「食と農」の仕事は多種多様である。それゆえ、次の世代を担う子たちにも知っていて欲しい「智恵」は多い。

農舎と農園の仲間が思い描く夢、そして、繋いで繋ぐことの新たな「もの語り」作り・・・

「いつかは社会がかわるのでしょう」とは、農舎と農園を切り盛りする杵塚歩さんや鷲野浩之さんから発せられた吐息でもあり、これから先数年後を見定めて「少しずつ少しずつ」歩み浩くする「もの語り」作りの夢の断片でもある。

「豊かな生態系」は都会の綺麗ごとではなく、自然の循環の中に身を置くことである。上流域の「田んぼ」には綺麗な水が川から流れ込み、田の排水路からは毎年「ほたる」が舞い立ち光をくれる。収穫後の稲わらや麦わら、大豆殻を畑に戻してあげると、土は豊かさを与えてくれる。畑の草取りで採った草は「鶏」の餌となり、その糞は畑に戻される。「合鴨」を使っているのは、そのような自然の循環に組み込まれているからである。

「人と人、人と自然を繋いで繋ぐ架け橋」になりたい。そして、「食と農と間に信頼の繋がり」を作りたい。これが農舎と農園の想いである。昨今、消費者は食の安全、そして、食への安心を求める。一方、広域の物流・情報のシステムが整備され、地産地消の直売にとどまらずネット通販も可能になった。それゆえ、その「架け橋」を往来する「もの語り」の循環が必要になるのであろう。

 (取材: 2022.10.27, 土屋雄大) 

プロフィール

土屋 雄大
土屋 雄大
青山学院大学大学院法学研究科博士課程修了。ビジネスとリーガルの融合研究と知的資産連携の環境づくりに関心を持つ。現在は、健康医療分野での臨床情報を体系的に把握するデータベース事業に携わる。協創&競争サスティナビリティ学会編集委員会幹事。