「地球温暖化の目線」からのサステナビリティ by 山下 勝(コラム協創&競争/Vol.1,No.7,2022.4.3)

コラム『協創&競争』

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当学会は、協創、競争、そして、サステナビリティを結びつける「場(領域)」に関わる研究調査の成果を蓄積することにより、開かれた科学の目線から新たな学問を深化させることを目指しております。それらの場(領域)に関わるトピックテーマを「Vol.」(巻)として、それぞれの「Vol.」の中に、おおよそ10個ほどのコラムを連載することにしました。 「安心・安全」「資源循環」「e-スポーツ文化」などの研究分科会に参加する方々からのコラム投稿も増えることを期待します。(JASCC.ORG事務局)

 地球温暖化について、「#CO2排出量」、「#冷媒の利用」と「#GWPが1桁の冷媒」のコンセプトを使いながら考えてみよう。

CO2排出を取り巻く状況

 昨今、地球温暖化が原因と考えられている、洪水、ハリケーン、冷夏、酷暑など世界各所で様々な気候変動が起きている。その原因として、CO2排出量の増大による影響だとの多くの研究者から報告されている。日本では、生活や産業活動から排出されるCO2排出量は環境省の推計によると年間11億トン程度である。これは、数年前まで13億トン排出であったことから、13%以上も削減したことになる。

 ところで、国内で、CO2排出量が騒がれるようになったのは1997年に京都でCOP3が開催されたことが切掛であった気がする。当時は年間6%削減という大きな値が目標とされ、世間が大騒ぎしていたが、その後、経済の停滞、生活圏内でのいろいろな省エネが促進され、一旦、落ち着いていた。しかしながら、2015年ごろにパリ協定やSDGsなど、国際的な環境推進活動の動きが活発になると、世界的に天候不順も相まって、CO2排出削減に関するこれまでにない厳しい動きが出てきた。

 日本も一昨年に、当時の管首相から2050年には、CO2排出をゼロにするなどの国の政策が示され、それに伴って新エネルギー導入普及(太陽光、風力等)、燃料電池自動車、水素エネルギー導入の促進など、様々な対策が加速され、それに呼応する様に消極的であった企業意識も大きく変革するに至った。

CO2排出をゼロにできるのか

 さて、2050年までに、本当にCO2排出をゼロにできるものだろうか?おそらく、現在の生活中でCO2を発生させる燃焼(生活、廃棄物処理等)、電力製造、資源製造、生活製品の製造に関わる燃焼をすべて止めても、自然界から発生するあらゆるCO2を吸収する操作がないと達成できないため、生活を縄文時代に戻しても、まず、実現は難しいと思う。仮に、先進国がCN(カーボンネガティブ)にできても、後進国の生活向上が、世界全体のCO2発生量に大きな影響を与え、急激に増大する事になろう。そのために、発生したCO2を埋めたり、再利用したりすることで、大幅にCO2発生対策として考えられてきたのがCCU/CCS、つまり、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage; 分離・貯留したCO2を利用)したり、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage;CO2を回収・貯留)しようという技術である。

 しかしながら、仮にCO2を回収した後、それを何に使うのか?エネルギーとして燃やしてはCO2削減には繋がらない。そのため考えられているのが、化学品や冷媒の利用となる。

CO2の問題は水素のコスト問題、そして、冷媒利用への期待

 CO2を化学品(メタノール等)に転換するには、水素が必要となる。しかも、できた化学品が、半分水を含むために、輸送コストで割高となってしまう。結局の所、CO2の問題は、水素のコスト問題である。現在、水素を作るのは天然ガスと水の反応により製造しているが、それなりのコストがかかり、しかも、必要不可欠な触媒金属は生産国が局在化(ロシア、中国、アフリカ)しており、持続的に安価に輸入して、、、なんて呑気なことを言ってられない状況にある。そのため、人工光合成技術などの水分解の登場となるが、これには相当量の電力が必要になり、国内で言えば、今のインフラの数倍の費用が掛かる上、生産変動もお天気次第という、安定供給が期待できない危惧がある。

 一方、CO2の冷媒利用は、GWP(地球温暖化係数;Global Warning Potential)がゼロのため、有望な技術と考えられている。但し、使用用途がエコキュート等に限られること、国内で利用してもCO2総利用量が微々たるため温暖化対策としてはほとんど効果がない。しかも、高圧容器であるため、容器を肉厚にしなければならなくCO2削減とは相反し、大きなCO対策とは言い難い。

エアコンで使っている今の冷媒はこれから使えなくなる!

 「地球温暖化対策において、22カ国70人の研究者による今後30年の地球温暖化対策の各種ツール検証で、冷媒対策が第1位に」(NHKスペシャル グレート・リセット(2021年11月7日))いう驚きのアンケート結果が出た。ここでは、エアコンを稼働する上で重要となる冷媒について、少し触れようと思う。

 フロン(第1世代)は、1920年代に米国(GM やデュポン)で開発され、「夢のガス」と称され、1970年代には冷媒や溶剤に広く使われていたが、オゾン層破壊の危険性を指摘され、その後、代替フロン(第2世代)が開発され、オゾン層破壊の問題は、解決されたものの、1990年代には、新たに地球温暖化、CO2排出削減対策として、新たな対策(GWPの大きな冷媒は使わない)を講じる必要性が出てきた。

(出所) 政府関係資料からNEDO戦略センターで作成

 現在のノンフロン冷媒(第3世代)は、主に、空調(家庭用、ビルマルチ)、冷凍・冷蔵庫の稼働に利用されている。家庭用空調機(クーラー)は、圧縮機、熱交換器を利用して、冷媒をつかって、大気中のエネルギーから暖房や冷房をつくる簡単なヒートポンプである。現在、国内では1000万台を生産する大きな産業となっており、ノンフロン冷媒生産は右肩上がりとなっており、推定5500万トンのCO2換算に相当するノンフロンが生産されている。

日本は2050年までに、GWPが1桁の冷媒を開発して使えるのか

 空調用冷媒の排出に関してはGWP(地球温暖化係数; Global Warming Potential)の指標が用いられる。GWPの定義は、意外と複雑(大気中に存在する存在年数により評価が大きく変わる)で、一般的には、CO2を1とした時に、ある化学物質の地球温暖化に対する相対的な効果をCO2と比べて何倍かを数値で表すことになっている。私たちの身の回りで、典型的なGWPが大きい化学物質としては空調や冷凍冷蔵用冷媒が挙げられる。昔のフロンだとGWPが数万、最新の代替フロン(R-32)でも675となっており、2019年1月に発効した「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書キガリ改正」によって、日本は2050年までに、GWPが1桁の冷媒を開発しなければならない。

(出所) 環境省資料からNEDO戦略センターで作成

 現状では、GWPが1桁で、性能が既存空調や冷凍冷蔵並みの、使い勝手の良い次世代の冷媒が、実用化されていないという状況にある。多くの場合、燃性、毒性、短寿命のため適切な化学物資がないのが理由である。

日本がモデル国となること

 経済産業省は、2030年の中頃までに、使用冷媒のGWPが10以下となる家庭用空調機の開発を行う予定である。そのためには、熱工学、材料科学、機械工学がこれまでにない新しい領域への挑戦(単成分から少なくとも3成分以上)に挑まなければならない。また、ビジネスの観点が重要になる。開発された低GWP空調機器を、キガリ改正で2050年には達成義務を課せられた先進国である欧米諸国へ優先的に投入するには、ビジネス戦略の思考は不可欠である。

 現在、欧米諸国の空調市場は、中国、韓国勢に制覇されている。10年後に、日本の空調機器が、先進国のマーケットを奪還するつもりで開発して欲しい。10年遅れてキガリ改正を遵守すれば良い発展途上国(中国、韓国、アジア諸国)へのビジネス展開を優先するのは間違いであろう。所得の高い先進国でビジネスを展開してから低コスト化を実現させ、後進国に本格導入すれば、持続可能な発展に資することもでき、ブランド力も備わって、大きなビジネスに発展していく。 

 今後、10年後に先進国と後進国が入れ替わることも考えられる。キガリ改正が、このまま続くとも考えられない。しかし、重要なことは、低GWP(1桁)のエアコンを世界に先駆けて開発し、日本がモデル国となることである。今後、ビジネスは臨機応変な対応が必求められ、これまで以上に、スピード感が求められる。産学官の新しい連携により世界でビジネスができる日本企業が復活してほしい。

プロフィール

山下 勝
山下 勝
平成3年東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)
東京大学(工業化学科)助手を経て、新エネルギー産業技術総合開発機構入所 エネルギー・環境部門、東京大学工学部(マテリアル工学科)助教授(常勤)、評価部、技術戦略センターを経て、2022年4月より東京理科大学産学連携機構在職。
専門:エネルギー、触媒化学、プロセス、材料、環境工学など多岐にわたる。国家プロジェクトのマネジメントに関しては立案、審査、実施、評価まで豊富な経験を有しており、数多くの大型プロジェクトに携さわってきたプロジェクトプロデューサー